2018年11月2日金曜日

エディンバラの死体商人|ウェストポート連続殺人事件

ヘアとバーク
ブラックユーモアが受け入れられない人には向かないが、イギリスのコメディ映画にバーク・アンド・ヘアと言う作品がある。
2010年に公開されたものだが、見たことのある人はいるだろうか?
ハッキリ言うとB級映画と言った感じで、演出はやや白ける場面も多いのだが、その内容は結構過激である。

なんとこの映画、実際に19世紀のイギリスで起きた連続殺人事件が題材となっており、脚色こそ加えられているものの、ノンフィクションである。


■時代の背景にある需要と供給

1827年のスコットランド・エディンバラに、ウィリアム・ヘアと言う男がいた。
彼の妻であるマーガレット・ヘアと下宿を営んでいたのだが、ある日事件が起きた。
下宿していた老人が、代金を未払いのまま息を引き取ったのである。
不幸事ではあるが、下宿人の家賃で生計を立てている以上、赤字でしかない。
ヘアは、当時一緒に下宿していた、ウィリアム・バークと言う男に話を持ちかけた。
エディンバラ医学校で、死体を買い取ってもらえると言う噂を聞いたことがあったのだ。
分け前を払う約束で持ち込んだところ、なんと死体を7ポンドで買い取ってもらうことができた。

死体を盗む墓荒し
死体が売れるのは、この時代の背景が関係している。
1832年以前、イギリス国内において医学研究用の死体の供給が不足しており、合法的に入手可能な死体は死刑に処された罪人に限定されていた。
また、あらゆる機関が死体を求めているため、圧倒的に需要が供給を上回っており、多少腐敗の進んだものでも高値で取引が行われていた時代。
そしてまた、当時は単純な死体窃盗は軽犯罪に分類されており、医学の進歩のためにも必要悪と考えられていたことから、罰金か短期の懲役刑で済み、リスクを冒しても商売として成り立つと考え、実行するものも珍しくはなかった。
そう、墓荒しは、こう言った時代の背景により、成り立つ商売だったのである。

墓荒しに対し、ヘアとバークが持ち込んだ死体は死後時間の経過も短く、状態が良いために高値で買い取ってもらえたのである。
これに味をしめた二人は、墓荒しを始めるが、なかなか状態の良い死体が手に入らない。
そこで二人は、あろうことか自ら"商品の調達"を行い、販売すると言うビジネスを思い付く。
当然ながら商品とは"死体"のことを意味し、調達とは即ち"殺害"すると言う意味である。
この時死体を買い取った人物は、エディンバラ医学校の、ロバート・ノックスと言う医師で、以降、二人の上客となる。
これが、未だイギリスで語り継がれる、ウェストポート連続殺人事件の始まりである。


■商品の調達

ロバート・ノックス
下宿へ戻った二人は、ヘアの妻であるマーガレットと、バークの愛人のヘレン・マクドゥガルと共謀し、次の商品調達に取りかかる。
まず始めの殺人被害者となったのは、病弱な下宿人のジョセフと言う粉曳きの男である。
ヘアとバークはジョセフに酒を飲ませ、酔い潰れたところを窒息死させた。
その後も、町で見付けたアビゲイル・シンプソンを同じ手口で殺害。
また、ヘアの妻マーガレットも、町で見付けた女性を酔わせ、夫に引き渡した。
これらの死体は新鮮で状態も良く、15ポンドで売れた。

この間、いつも同じ二人組が死体を売りに来るのに、ロバート医師は死体の出所について言及することはなかった。
それどころか、もっと死体を売ってもらえないかと、話を持ちかけてきたのだ。

ここから、彼らの行動はより大胆なものになってくる。
今までは身寄りもなく、行方不明になってもシラを切ればやり過ごせそうで、いなくなっても誰も気にもしないような人ばかりを狙っていた。
しかし、それらは慎重に行われ、調達の効率が良いとは言えなかったのだが、ここからは町中の誰もがターゲットとなっていく。


■疑い始める医学生たち

バークは次に、町で娼婦をやっているメリー・パターソンとジャネット・ブラウンの二人の声を掛け、下宿へ連れ込んだ。
この時、愛人のヘレンがそれに気付いてバークと口論になってしまう。
その間に見かねたジャネットは席を外したが、次にジャネットが部屋へ戻った時には、既にバークとメリーの姿はなく、ヘレンから二人は一緒に出掛けたと説明された。

翌朝、医学校に届けられた死体の顔を見た学生たちがどよめく。
生前世話になったこともあるのだろう。
解剖台の上に横たわっているのは、娼婦のメリーであると、多くの学生たちが気付いたのである。

次に狙われたのは、エフィーと言う物乞いの女である。
警察に尋ねられているところを、バークは知り合いであると告げて彼女を引き取った。
エフィーも、その数時間後には医学校の解剖台へ横たわることとなる。
更に無差別な殺人は続き、老婆と、耳の不自由な少年を殺害。
その次には、なんと身内まで手を掛けた。
バークの知人のオストレー夫人、そして、ヘレンの親戚であるアン・マクドゥガルを殺害。

続いて、ヘアはメリー・ハルダンと言う老娼婦に接触。
その後、母メリーの行方を探していた娘のペギーも、母親と同じ結末を迎えることとなる。
しかし、メリー・ハルダンはこの辺りでは有名だったため、この失踪事件は世間に知れ渡ることとなる。

次の被害者となったのは、ダフト・ジャミーと言う、足の不自由な発達障害の少年であったが、彼もまた、この辺りでは有名過ぎた。
翌朝、ジャミーの死体が解剖台に乗せられると、医学生たちは皆、それがジャミーであると確信した。
医学生たちは口々にジャミーであると指摘をしたが、ロバート医師は、これはジャミーではないと否定したが、顔から解剖しなければならない状況となってしまった。


■事件発覚

最後の被害者となったのは、マジョリー・キャンベル・ドチャーティと言う女性。
この日、バークはドチャーティを下宿へ誘い込むことに成功するが、ジェイムス夫妻が宿泊していた。
バークは夫妻が出ていった後にドチャーティを殺害するが、翌日になってアン・ジェイムスがストッキングを忘れたので取りに来たと、再び訪れる。
この時、ジェイムス夫妻が宿泊していたベッドの下には、ドチャーティの死体が隠してあり、発覚を恐れたバークはこの申し出を断ってしまう。

この行動を不審に思ったアンは、夫のグレイと共に警察へ知らせに行く。
その途中、夫妻と会って話を聞いたヘレンは、この状況を仲間へ伝えに下宿へ戻った。
一刻を争う事態に、バークとヘアは警察が訪ねて来る前に急いで死体を片付けたが、口裏合わせは不十分であり、証言に食い違いがあるとして警察はバークとヘアの二人を逮捕した。
その後、ヘレンとマーガレットもすぐに逮捕され、この事件は新聞で世間へ明るみとなった。
この時見付かった死体を、ジェイムス・グレイはドチャーティで間違いないと証言し、娼婦のジャネットは、メリーの衣服を確認して、間違いないと証言している。

彼らがこれまでに殺害した被害者は16名に上り、悪質な墓荒しと第一級殺人罪の容疑で逮捕となった。


■その後...

連続失踪事件の容疑者は逮捕されたが、二人の犯行を裏付ける証拠が不十分であったため、検事総長ウィリアム・レイ卿は、ヘアに犯行の自白と、バークに不利な証言をすることで訴追の免除を持ちかけた。司法取引と言うやつである。
これにより、バークは絞首刑となり、後に被害者と同じ道を歩むこととなった。
そう、皮肉なことに、バークの死体は解剖台の上に乗ることとなったのである。

死体を買い取っていたロバート医師は、死体の出所については知る立場にはなかったとして訴追はされなかったが、生徒たちからの信頼は言うまでもなく大きく損なう結果となった。

バークの愛人だったヘレンと、ヘアの妻マーガレットは、共謀の証拠が不十分と言うことで釈放されたが、自宅に戻ったところを怒りに奮える民衆からリンチに遭い、外国へ逃げるようにスコットランドを後にした。
その後の詳細な記録は残されていない。

また、絞首刑を逃れたヘアは1年後に釈放されたが、その後はロンドンの路上で乞食生活をして余生を過ごしたとされる。

尚、絞首刑に処されたバークの皮膚は本の装丁に使われ、この本は王立エディンバラ外科学校へ。
また、骨は骨格標本として、エディンバラ大学医学校の骨格資料室に保管されていると言う。
彼の骨には、首から"殺人者バーク"と言うプレートが掛けられ、今もなお生徒たちの目に晒されている。

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